大学院進学希望者特設サイト

From alumni

ものの本質を見つめようとする力は
どの分野に進んでも強みになります

BNPパリバ証券株式会社
取締役

Yasuko Hisamatsu

東大の物理学科で一緒だった友だちと、彼女も今は研究者ではありませんが、どうしても物理のニュースが気になってしまう私たちって一生、物理屋なんだねという話を先日したばかりです。博士課程まで物理を勉強すると、やはりそれが自分の心のコアになるものなんですね。

理系の選択をしたのは高校生の時です。父が化学の研究者でしたので、その影響が大きかったと思います。小学生の私を学会に連れていってくれたのですが、ポスターセッションなどをわけもわからず憧れを持って見てました。駒場時代に出会った、ものごとをスッキリ説明していく量子力学がとても魅力的に感じました。ものがわかった、腑に落ちた瞬間というのは、何にも代えがたい喜びなんです。それは最先端の研究でも同じで、データ解析をして「こういうことなのか!」とわかった瞬間の喜びは他では味わえない深いものですね。

私はICEPPという名称になってからの女子大学院生第一号だったんです。学部生だったころも、物理学科で女性は私ともう一人の二名だけで、仲良く二人で勉強したり、遊びにいったりしていましたから(笑)、私自身は特に意識はしませんでしたが、周囲の皆さんはとても配慮してくださったように思います。ICEPPでは、一度実験を始めたら、みんなでシフトを組んで夜通しデータを取り続けるのですが、女性だから夜は帰るということはしたくはなかったですし、みんなで一緒にやろうという雰囲気でしたので、夜泊まり込みで真空ポンプの横でデータを取って解析してというのをしていました。研究室の先輩方と夕食一緒に安田講堂地下の学生食堂に行きましたが、赤門ラーメンを食べながら、たわいのない冗談を息抜きに過ごした時間はとても良い思い出です。

実験というのは、うまくいくことのほうが少ないんです。苦労の連続ですが、確実に言えるのは、あの頃の経験があるからこそ、今日があるんだということです。また、駒宮幸男先生(2000年より素粒子物理国際研究センター長)や小柴昌俊先生にもたいへんお世話になりました。駒宮先生は「お前ら、基本がなってない。基本だ、基本だ」とよくおっしゃっていました。その言葉は自分の心の中に強く残っています。私はいま金融の世界にいますが、新しい現象に対して数式を使って説明する時、本当にその数式がわかっているのか、根本の根本を理解しているのかと自問します。

小柴先生には、毎年シシリー島で開かれるErice Schoolに推薦していただき、参加することができました。そこでMEG実験について発表をして、最優秀学生(Best Student Award)に選ばれました。「ワー、楽しかった」で終わっちゃいけない、小柴先生に恩返ししなきゃという気持ちで研究発表を行いましたが、その内容を評価いただき、とても光栄な経験でした。

スイスのポール・シェラー研究所にも派遣していただきました。イタリアの女子学生と大の仲良しになり、一つの夢に向かって頑張り合える仲間というのは、言葉の壁を越えてわかり合えるんだなと、大切な思い出もたくさんできました。

金融の世界に入ったのは、環境を変えて新しいスタートを切りたいという思いが募ったからでしたが、当時は物理学から金融の分野に行くというのはそれほど珍しいことではありませんでした。楽しかった研究から離れるのは辛いという気持ちもありましたが。

基本を大事にし、ものの本質を見つめようとする力、そういう視線は素粒子物理をしているからこそ身につくものですし、将来どんな仕事に進んでも必ずその人を助けてくれると思います。素粒子物理の研究をぜひ楽しんでもらいたいなと思います。

プロフィール

2005年3月東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(森研究室)修士課程修了。2009年1月同博士課程修了、博士(理学)。同年4月に入社後、金融リスク管理の分野での主要なテーマに関連するプロジェクトに携わる。2017年6月リスク・オペレーショナルリスク管理部⾧、2021年7月グローバルマーケット・リスク管理部⾧を歴任。2023年6月より現職。BNPパリバ銀行東京支店・最高リスク管理責任者も兼任する。